中世編第二話「料理人の出世」(その3)





 中世の頃のお話の続き


 翌朝、仕事が多いので、聖職者はちょっと早めに目を覚ます。本日の処
刑予定者は30名程だ。他にも聖職者立ち会いがない処刑は多数あるが、
Jには関係しない。聖職者による立会や執行が必要な処刑だけでも30件
あるということだ。王族の処刑はまだ決定通知が届いていないので、それ
以下の相手国の軍人や反逆者、それに強盗とかチンピラとその係累、貴族
などが主な処刑対象だ。

 いくつかの処刑では高位職者が相手なので、複数の聖職者の立ち会いが
必要になる。結構忙しい一日になる予定だ。余程の高位の者でない限りは、
処刑方法はこちらで選択することになっている。

 処刑方法は、当日朝になってから、執行官のJに手渡される。執行状を
通読するJ。面倒な火刑や引裂刑がないことを確認して、ちょっと安心す
るJ。人数だけは前もってわかっていたが、処刑対象者と執行手段、場所
については当日にならないとわからないのだ。主君を処刑から逃そうとす
る輩もいるので、当日まで秘密にされている。

 マニュアルにも、相手の役職レベルによって、城内中庭か広場かといっ
た場所や、断頭か斬首か絞首か磔かといった手段で区分けがされている。
さらに、相手の罪状によっては火刑や水刑、引裂刑や撲殺刑といったもの
もある。

 今日の予定では、中庭での絞首と斬首が四件づつと、広場での斬首が八
件に、残りの十四件が広場での絞首だ。男はその内の八件で残り二十二名
は女だ。

 男の場合、自害して果てることができるのだが、この国では女性の自害
が生憎と禁じられている。また、戦後の処刑の場合、後腐れがない様に、
一族単位での処刑を行うことが多い。よって、女の処刑が多くなってくる。

 中庭での処刑は、勝利国の代表者の謁見を必要とするもので、それなり
に位階の高い者や、国にとって影響が多い者の処分だ。広場で執行される
者は一般犯罪者といった括りになる。

 斬首は絞首に比べて、罪状が低い者に対して行われるが、審判官の気ま
ぐれもあって、確実に分類されているわけでもない。また、執行官の判断
で、処刑方法を変えることも、ある程度、可能だ。とはいっても、中庭で
の謁見を受ける様な処刑では、難しいが...

 同じ絞首でも、中庭と広場では趣きが異なる。中庭での執行の場合3m
程の高さから落として一瞬で締め付けて首の骨を折る、long dropタイプだ。
広場での絞首は、首にロープを回して引き上げて窒息死させるのが、習わ
しだ。前者は、謁見者の手間を削減するために即死させて、後者について
は、見学者の楽しみのためにゆっくりと時間をかけるためだと言われてい
る。

 執行官としては、落下で一瞬に終わってくれると楽なのだが、広場では
そのための設備がない。よって、処刑吏による引き上げておいて、自重で
の首絞めで、数分、場合によっては10数分のダンスを披露させて逝かせ
るという時間がかかる処刑になる。

 宮城中庭での処刑には、正司教のJか司教のグルナスが必要になる。そ
れにあと一人の聖職者が必要になるのだが、どうしたものか... 少し悩ん
だJは、執行命令書にある担当者欄に記入する。中庭での処刑にはJと若
い僧のエビルスを、広場での処刑には残る二人、グルナスとルグランをあ
てることにした。

 中庭での断頭処刑は順調にいけば午前中の前半に終わり、絞首もうまく
運べば正午過ぎに終わる予定だ。中庭の仕事が終わったらグルナスとルグ
ナンの仕事ぶりを見ることにする。ついでにダンブに雰囲気を教えること
にして、特別閲覧者としてダンブの名前を記載して、役所に執行命令書を
戻す。

 Jが命令書に記述しおわった頃、ダンブが料理を執務室に運んでくる。
今日も朝から贅沢にも肉だ。仕入れの単位が大きいから、はやく使い切ら
ないといけないのだろう。シチューとパンが食卓に並ぶ。

 「ところでダンブ、朝食が終わったら、仕事に付き合ってくれ」とパン
をちぎりながらJが依頼する。「仕事といいますと?今日のご予定は?」
と聞いてくる。「いつもの仕事だよ。儀式の立会だ」と誤摩化すJ。「
では、片付けが終わりましたら、伺います」「いや、片付けは若いのに任
せて、食後すぐに付き合ってくれ」「はぁ、急ぐんですか?」とダンブは
不審そうだ。

 「昨夜の斧も準備しておいてくれ。ちょっと手伝ってもらいたいのでな」
とJが言うと、「屍体の解体でも?」と聞いてくる。「いや、屍体にする
仕事だよ」と言うと、ダンブがちょっと驚いた顔になる。一介の料理人に
聖職者の真似をしろ..ということだ。それはちょっとした驚きだろう。「
なにも、タダで..ということではない。手当は弾むよ。それに、お前に家
業をやめろというわけでもない。ちょっと人が足りないので、手伝ってく
れということだ」というJの説明に、ちょっと考えているダンブ。

 「... 罪人の首を刎ねろというわけですね?」と当然のことを聞いてく
るダンブ。「そういうことだ。一日で、三日分の給金を出すが、どうだ?」
とJが交渉に入る。

 「あっしは、この仕事、好きなんですが..」とダンブ。「そうだな、助
手を付けることにしよう。それでどうだ?それに一日で七日分の給金とい
うことで、だめかね?」と条件を積み上げるJ。急にダンブの表情が明る
くなる。「そういうことでした..」とにこやかになる。

 「では、食事が終わったら教会の聖堂に来てくれ。仮聖職宣布をして、
お前を聖職者として、任命するから」と言うと、「はい!」と嬉しそうに
答えて、執務室を出て行くダンブ。

 「問題は、料理がまずくならないか?ってことだな。そこは手抜きしな
いだろうが..」と、シチューをスプーンで口に運びながらJが独り言をす
る。しばらくすると、グルナスと、エビルスがその後にルグランが執務室
にやってくる。朝食がてらの今日の打ち合わせが始まる。

 本日の処刑リストを3人に見せて、確認させる。若い僧の二人としては、
気乗りしないみたいだったが、リストの下の方を見て、ルグナンの目が輝
きだした。

 武器商人の一族の処刑だが、今回の処刑では六歳と八歳の娘も処刑が執
行される。10歳以下の幼少の子息や令嬢の場合、貴族や王族でなければ、
子供を別の家に養子に出して、処刑を免れることも許されている。だが、
この一族はその制度を知らなかったのか、一族全員と係累が処刑となって
いる。幼い子供、特に女の子の処刑を喜ぶらしいルグナンが喜ぶのも無理
はない。

 さらに、娘付きの侍女だろう、10歳前の娘三人が武器商人の娘と運命
をともにする。幼い子を絞めるのが好きなルグナンとしては嬉しくて仕方
がないのだろう。ニコニコとしているルグナンの顔を眺めていると、視線
があった。ばつが悪いのだろう、コホンと空咳をしてまじめな顔になる。

 一族を同じ日に処刑する場合、年長者からの処刑となる。幼い子らにつ
いては後になるので、中庭での処刑をはやめに切り上げたら、グルナスと
ルグナンの仕事を見ることも、出来そうだ。そのためにも、早めに処理し
ないといけないな..とJは考えるが、そのためにも、断頭を遅滞なく済ま
せないといけない。

 「これから、処刑立会が多くなるので、この人数ではちょっと無理が出
てくると思うのだが..」とJが切り出す。「でも、聖職者は、ほとんど出
はらっていますよね。誰か、呼び戻すのですか?」とグルナスが問いかけ
てくる。

 「そこで、断頭と斬首を誰かに任せて分業にしたいのだが、どうだ?」
とJ。「昨夜のダンブですか?」とエビルスが聞いてくる。勘がいい奴だ。
「うん、そう考えているのだが、どうだろう?」とJが打ち明ける。

 しばらく考え込んでいる三人をよそに、残っているシチューを味わいな
がら、三人の顔を伺うJ。「肉を切る技は、昨夜見ているのでわかります
が、実際に生きている罪人を切るとなると勝手が違うと思うのですが..」
と、ルグランが心配そうに言う。

 「なに、場慣れさせたらよいのだよ。今日の中庭での断頭と、広場での
斬首の見学をさせて... できたら何体かを試させるというのはどうだ?」
と、Jが提案する。

 「ジェクソン師が、そうお考えでしたら、異論をはさみません。が、も
し、使えなかったらすぐに聖職から戻す様にお願いします」と、一介の調
理人が自分と同列になるのが不服なのだろう、エビルスがしぶしぶと了解
する。

 「わたしも同意します」と、グルナス、ルグナンも認めてくれた。これ
で、現場の同意は取り付けたわけで、今日の指示書の写しに、ダンブの名
を記載して、これに同意の署名を三人にさせる。

 食事が終わって食器を片付けに来たダンブを連れて、教会の聖堂に行く
J。「だ、旦那様、昨日の今日ですか?」とダンブが驚いている。「ああ、
悪いが、よろしくな」と、型通りだけの聖職宣布をして、これでダンブも
一応、聖職者見習いだ。処刑立会の人数にできる。

 「こ、こんなんで大丈夫なんすか?」と、ダンブが不安げに聞いてくる。
不安といったら、こっちも不安だ..と言いたいところを堪えて、Jは、「
今日は見学してくれ」と、中庭の下にある留置所にダンブを連れていく。

 すでに、グルナスらも留置所の前に来ていて、留置所の官吏との確認打
ち合わせをしている。

 中庭下の留置場には、翌日処刑される者の最期の宿泊施設として使われ
ている。格子がはまった窓から、処刑場が見える様になっており、ここに
入った者に覚悟を決めさせるという意味もある。

 牢屋になっていて、出入り口は固められてはいるが、中は普通の民家と
変わりない。むしろ、清潔に保たれいてる。そういった部屋が三つありわ
けられて30人が泊まっている。

 武器商人一族の処刑。我が国とも敵国とも取引をしながら、納品を遅ら
せて作戦を妨害したことと、いったん納入した武器を横流しして相手国に
売り渡したという二重売りが、彼ら一族の罪状だ。

 聖職衣のJらを見て、最期の時が近いと判断したのだろう、族長とその
側近の顔が青ざめていく。「せめて、娘たちでも助けてもらえないか?」
と、ぎりぎりになって懇願してくるが、「裁きはくだりました。わたしど
もは、裁きを行う立場にありません。娘さんたちには、お気の毒です。が、
養子に出すなどで、逃がされなかった以上、仕方ありません」と、Jが伝
える。

 「では、族長様方八名は、ここでお待ちください。他の方々は、広場に
移動をお願いいたします。あ、申し遅れましたが、今日の担当になります
ジェクソンと申します。こちらにいるのは、グルナスとエビルス、ルグナン
それに、ダンブと申します」


     挨拶は終わった、これから忙しい一日がはじまる



                   ---To Be Continued---

長い前置きで、ごめんなさい。これからお楽しみがはじまります

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